時間の過ごし方
痛みや熱もなく、気分の良い時はベッドでの一日は長い。僕は持参したCDラジカセで大好きなJAZZを何度も聞きまくった。 午前中は、ピアニストが奏でるバッハの曲を聴く。次に今度は同じ曲をJAZZにアレンジしたジャック・ルーシェ・トリオの“PLAY
BACH”をベッドに横たわりながら聴き比べする。 昼食後は眠くなる。少ししんどい。この時間は ジョン・コルトレーンを聴く。ゆっくりと時を押し流していく、彼のサックスはけだるい雰囲気によく溶け合う。昔、木屋町の音楽喫茶「ミューズ」でこの曲を聴いたことを思い浮かべながら・・・。
(親しい知人から頂いた組立て式のお見舞いカード。金魚鉢を揺らすと金魚が動いて涼風を運んできてくれる。とても癒された)
夜は9時半消灯と早く寝ることになる。夜型人間の僕にはこれが結構苦痛だ。この悩みを解消してくれるのがルイ・アームストロングのトランペットと彼のボーカルだ。暗くなった病室で眠くなるまでルイ・アームストロングを聴く。特に気に入った曲は、“この素晴らしい世界”と“バラ色の人生”の2曲。とても前向きな気持ちになる。
もうひとつは読書だ。以前に購入した百田尚樹著の「日本国紀」。入院中はとても読めないだろうと思いながら持参した本だ。古代から始まるこの本は、面白くなく、面倒臭くなって10数ページで投げ出したものだが、最後まで読もうと思ったきっかけは、医師から朗報を聞いたことによる。
手術から2週間たった夕方、リーダー格の医師から、ポリープが悪性ではなかったと告げられた。膵臓ガンではなかったと知ったとき、うれしい!これで少しは長生きできるぞ、と心の中で快哉を叫んだものだ。それから4日かけて読破できた。
退院の前夜が「大文字の送り火」の日となった。夕方、若い看護師が、病院から一番よく見える場所をそっと教えてくれた。相部屋の隣の人(食道ガンで入院)と 斜め向かの人(肝臓がんで入院)と3人でそのスポットまで歩いて行った。やがて8時。真っ暗な闇の中に鮮やかに大きな 大文字が現れた。さらに窓ガラスの左側の遥か先に、松ヶ崎の「妙法」のうち、「法」が見えた。嬉しかった。ご先祖や亡くなった父母が僕を見守ってくれていたのだ・・・。
胸が熱くなった。 (了)