「行く川の流れは絶えずして しかももとの水にあらず・・」にはじまり、 五七調の絶妙な音律で
綴られる方丈記は、枕草子(清少納言)、徒然草(吉田兼好)とともに三大随筆にかぞえられるわが国
古典の名作である。山科・日野の草庵に隠せいした鴨長明(かものちょうめい)は、仏教思想による
無常を感じ 俗世を逃れたが、天を恨まず世をそねまず 己れの境地に安堵の世界を見いだす。
この心情を背景にして、著者は平安末期以降のたび重なる災厄と混乱に直面するが、冷静な目で
事象を観察し 大火や地震、遷都などの情景とそれにほんろうされる庶民のありさまを活写する。
かつて、「サンデー毎日」の編集長などをつとめたジャーナリストの鳥越俊太郎氏は、「ルポルター
ジュはかくあるべし、これぞ報道の規範である。」と賞賛した。新聞社などマスコミ関係に就職した
新入社員は、この文章を題材にレポートを提出させられる、と伝え聞く。
長明の生きた時代からおよそ800年を経過しても なお色あせず、じつに味わい深い文章である。
コロナ禍になやまされる今日ゆえに いま一度読みかえしてみるのも 時間のムダではないと思う。