「方丈記」は、建暦2(1212)年に著わされた、400字詰め原稿用紙にして25枚程度の短編である。
長明は、まず 「ゆく川の流れ」をたとえとして世の無常を述べ、自身が体験した五大災厄の模様を描いて、「世の不思議(信じられない出来事)」を記す。
ついで、出家したあとに見いだした閑居の楽しさや安らかさを語る。さらに、孤独な草庵生活の意義を強調する一方で、草庵に執着する自分への疑問に明快な
答えを出せず悩みを抱えたまま、念仏を唱えて作品はおわる。
☆ 内容は、おおむね18の部分から構成される。
(1) 有名な序文 (2) 安元の大火 (3) 治承(じしょう)の辻風 (4) 福原遷都 (5) 平安京へ再遷都
(6) 養和の飢饉 (7) 疫病の流行 (8) 仁和寺の隆暁(りゅうぎょう)法印 (9) 元暦の地震
(10) このころの格差問題 (11) 隠棲の理由 (12) 庵のたたずまい (13) 庵付近の様子
(14) 近くを散策する (15) 独居の楽しさ (16) 自助による生活 (17) 閑居の雰囲気
(18) 終文「ときに建暦2年3月のころ、桑門の蓮胤 外山の庵にてこれをしるす。」で擱筆。
☆ 長明が、まのあたりにした五大災厄とは。
(1) 安元の大火(注) 安元3(1177)年4月28日 樋口富小路(現在の下京区万寿寺通富小路付近)から出火。
京の3分の1が一夜で焼失。
(2) 治承の辻風 治承4(1180)年4月29日 午後におこったトルネード。
家屋の損害多大、負傷者数知れず。
(3) 治承の遷都 治承4(1180)年6月2日 平清盛による摂津福原(現在の神戸市)へのにわかな遷都強行。
人心の動揺、旧都(京)荒廃の様子。
(4) 養和の飢饉 養和元(1181)年から翌年にかけての天候不順による全国的な大飢饉。
京では疫病(コレラ)の流行も重なって餓死者、病死者数万人。隆暁法印が登場。
(5) 元暦の地震 元暦2(1185)年7月9日 琵琶湖 北西岸の湖西断層を震源とするM7程度の大地震と余震。
内外で建物が倒壊。湖岸で起こった液状化現象。